ラグランジュ微分(実質微分)とオイラー微分は主に流体力学で出てくる概念で、流体力学の難所の1つと呼ばれる概念で、多くは


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(分かりづらいですが、太字をベクトル、普通の文字をスカラー実数値と捉えています)


という数式で表される概念です。


 これについて、1つわかりやすい例題を思いついたので載せておきます。



 まず、「物質座標」と「空間座標」との違いについて説明しておきます。

 物質座標とは、物質はりついて移動する座標です。物体の形が変われば座標系の形もそれに併せて変形し、座標は基本的に時間経過によって変化することはありません。
 記号では、物質座標は「動く座標系」という高校物理由来の表現をそのまま踏襲して


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と表します。

 空間座標とは、客観的に物質を捉える座標系で、流れがあるならば当然時間経過によって変化します。
 記号では、やはり「動かない座標系」という表現で


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と表します。


 次に、位置ベクトル x に対して実数値φ(x)を対応させる関数φを定義します。つまり、位置ベクトルが2次元で(x, y)とするなら、


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と表される実数関数というわけです。(これをスカラー場と呼びます)。
 流体におけるφにあたるものとしては、密度、圧力、温度などが考えられます。

 ここではφを「温度」と捉えてみましょう。


 次のような温度場を考えてみましょう。
t = 0において、等温線を引くと縦縞になり、y軸で0℃、y軸から離れていくごとに正の方向なら温度が線形上昇、負の方向なら温度が線形減少しているような温度場です。

 そして、ここにyの値が増えていくごとに速度が線形に上昇し、減るごとに線形に減少する流れを考えてみます。つまり、x軸においては速度が0になります。

具体的には、1秒後に次のような温度場になる状況を考えます。


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温度はx軸にのみ依存して分布し、流れの速さはyにのみ依存します。そしてy = 1において流れの速さがa[m/s]となるように定めておきます。

 この状況において、物質座標的な温度分布を求めていきましょう。つまり、どれだけ流れても座標そのものが流れに合わせて変形し、時間変化を起こさない分布です。
 つまりこのときの物質表示法は


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となります。Xが物質に張り付いた座標であることを今一度ご確認下さい。

 次に、空間座標的な温度分布を考えてみます。
試行錯誤の結果、


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などと表示しておけば具合が良さそうだと分かります。


ここでxとXの対応関係を調べておきましょう。

 t秒後に物質座標(貼り付き座標)において(X, Y) = (2, 2) の客観的な位置は


(x, y) = (2 + at, 2)


などと表示されそうですから、


(x, y) = (X + at, Y)


として置けば、都合が良さそうです。つまり、


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です。


ここで、先程の


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について考察してみましょう。先程の話を踏まえると、(D/Dt)は「客観的な空間座標に施すと、物体に貼り付いた物質座標の微分値に等しくなる作業」らしいということが分かります(「実質微分」とか呼ばれています)。

φ(X, t) = X[℃]でしたから、


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つまり、温度場は物質(貼り付き)座標系において時間変化をしないということを表しています。


では、空間座標系ではφ(x, t) = x – ayt[℃]でしたが、どのように表されるのでしょうか。


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なんと、その通りであることが分かります。


では、時間変化とともに、冷めてしまう温度場を考えてみましょう。つまり、tを変数として


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となるような場合です。ここで温度の時間変化にexpを使う必然性はないのですが、どうせならリアリティーを持たせるためにとこの関数を使ってみましょう。


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これを見ると、温度場は数秒もしないうちに0℃に収束してしまい、温度がほとんど0℃で均一になってしまうとイメージできます。


先程と同様、物質表示(貼り付き表示)、空間表示、物質座標と空間座標の関係を調べると次のようになります。


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ここで、物質微分(ラグランジュ微分)を調べると、


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つまり、最初は温度Xに応じて急速に冷めるが、徐々にその冷め方は穏やかになっていくということです。

空間微分(オイラー微分)を調べると、


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となり、確かに同じであることが分かります。

ではそれぞれの要素について解釈してみましょう。


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は言葉にすると、


 (物質(貼り付き)座標における温度の変化率)
= (空間座標における温度の変化率) + (流れの速さ)・(温度場の傾き)


時間とともに冷める速度場は分かりづらいので1つ前の冷めない速度場を例に取ると、


(物質(貼り付き)座標における温度の変化率):0
(空間座標における温度の変化率):-ay
(流れの速さ):(aY, 0)
(温度場の傾き):(1, -at)


となります。これでそれぞれの大まかな理解はできました。



このあと、下2つのベクトルの内積の物理的意味について論じなければならないのですが、現時点ではまだはっきり分かりません。どなたかご教授いただければ幸いです。